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【門前仲町 福永法律事務所 】法定養育費について弁護士が解説

民法等改正で新設される「法定養育費」— 制度の趣旨と適用、留意点について

20245月に成立した「民法等の一部を改正する法律」には、父母の離婚後の子の養育に関する重要な見直しが含まれています。その一つが、新たに導入される「法定養育費」の制度です。

この改正法は、20265月までに施行される予定であり、今後離婚を考えている方にとって、制度の正確な理解が不可欠です。

本稿では、法定養育費制度の趣旨、請求できる要件、そして従来の養育費との関係について、法務省の発表に基づき解説します。 

※本稿は20251016日現在の情報をもとに作成しています。

法定養育費制度の概要と趣旨

1. 法定養育費とは何か

「法定養育費」とは、父母が離婚の際に養育費の額について取り決めをしなかった場合でも、子どもと同居する親(監護親)が、別居親に対して法律に基づき一定額の養育費を請求できるようにする制度です(改正民法第766条の3)。

これまでの民法では、養育費の額は、父母間の協議または家庭裁判所の手続き(調停・審判)によって定められなければ、別居親に請求することはできませんでした。

2. 制度導入の趣旨(目的)

法定養育費制度は、以下の目的のために導入されます。

  • 子の最低限度の生活の確保: 養育費の取り決めがないために、子どもの生活が不安定になることを防ぎ、最低限度の生活維持に必要な費用を迅速に確保することを目指します。
  • 請求手続の簡素化: 父母間での養育費の取り決めが困難な場合、従来の制度ではまず家庭裁判所に調停・審判を申し立てる必要がありましたが、法定養育費の範囲内であれば、この手間を軽減し、請求を容易にします。

法定養育費の具体的な内容と適用

1. 法定養育費の金額と算定

法定養育費の具体的な金額は、法務省令で定められることになります。

  • 算定基準: 「子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額」とされています。
  • 法務省の案: 20258月に発表された法務省の省令案では、子ども1人につき月額2万円とすることが示されました(この金額はパブリックコメントを経て最終決定されます)。
  • 特徴: この法定養育費は、支払う側の個別の収入状況や、医療費などの個別事情に関係なく、一律に特定額となる見通しです。

2. 適用対象者と請求できる要件

法定養育費を請求できるのは、以下の要件を満たす場合に限られます。

要件

詳細

留意点

対象者

子を監護している親(監護親)

監護親が、別居親(子の監護をしていない親)に対して請求できます。

離婚形態

協議上の離婚であること

調停離婚や裁判離婚など、裁判所の手続きで養育費の取り決めがされた場合は、当然ながら法定養育費の適用外です。

取り決めの有無

離婚時に養育費の分担についての定めがないこと

離婚時に「養育費は不要」と取り決めた場合などは、法定養育費の請求はできません。

適用時期

改正法施行後に離婚した場合

法定養育費の規定は、改正法施行前に離婚したケースには適用されません。

3. 養育費の支払の始期と終期

法定養育費の支払の始期(いつから請求できるか)も、改正法で明確化されています。

  • 始期: 離婚の日から請求できます。これにより、離婚成立と同時に最低限の養育費が確保されることとなります。
  • 終期: 法定養育費の規定は、父母が養育費の額等を協議等で定めるまでの暫定的なものという位置づけです。そのため、子の成年に達するまで支払われるとは限らず、父母が養育費の取り決めをしたとき、家庭裁判所における養育費の審判が確定したとき、こどもが18歳に達したときのうち、最も早い日までとされます。

従来の養育費と法定養育費の関係

1. 法定養育費の「暫定性・補充性」

法定養育費は、あくまでも暫定的な最低限の保障を提供するものです。

子の健やかな成長を支えるためには、従来の養育費の考え方である「生活保持義務」に基づき、父母双方の収入や生活水準を考慮した適正な養育費が支払われることが重要です。

  • 法定額を超える養育費: 子どもの教育費や医療費、あるいは父母の収入水準から、法定養育費の額(月額2万円の案)が不十分であると判断される場合は、従来通り、父母の協議や家庭裁判所の手続き(調停・審判)によって、より高額な養育費を定めることができます。
  • 法定額を下回る養育費: 別居親の収入が乏しいなど、経済的な事情により法定養育費すら支払いが困難な場合には、父母の協議により、法定額よりも低額な養育費を取り決めることも可能です。

2. 支払確保の実効性向上:先取特権の付与

改正法では、養育費の支払いの確保に向けた重要な見直しも行われています。

  • 一般先取特権の付与: 法定養育費の請求権を含め、養育費債権に一般先取特権が付与されます。これは、別居親の財産を差し押さえる場合、他の債権者よりも優先して弁済を受けることができる権利です。
  • 執行手続きの簡素化: 法定養育費は額が一定であるため、未払いが生じた場合の強制執行申立てにおいて、債務者(別居親)の収入等に関する文書の提出が不要になると考えられており、従来の執行手続きよりも実効性が高まると期待されています。

制度の施行に向けた留意点

法定養育費制度は、養育費の取り決めがない子どもの生活を最低限保障する上で画期的な改正です。

しかし、この制度はあくまで暫定的・補充的なものであり、子どもの将来にわたる費用を充足するためには、父母が話し合い(協議)または家庭裁判所の手続きを通じて、従来の算定表に基づく適正な養育費の額を定めることが依然として最も重要であることに変わりはありません。

この改正法は、20265月までに施行されます。制度が施行される前に離婚を検討されている方は、ご自身のケースが制度の適用対象となるか、また、最低限の法定額で良いのか、専門家である弁護士に相談し、適切な手続きを取ることをお勧めいたします。

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