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【門前仲町 福永法律事務所 】離婚慰謝料について弁護士が解説

【弁護士解説】離婚慰謝料:請求の法的要件、相場を左右する要素、実務上の戦略

離婚問題において「慰謝料」は、当事者の精神的苦痛を金銭で償う、最も感情的な対立が絡む分野です。また,大部分の事案では,不貞行為の有無が争点となりますが,慰謝料請求が認められるためには,密室で行われる不貞行為にかかわる緻密な立証が不可欠です。
本稿では、慰謝料にかかわる裁判所の判断基準、そして実務上重要となる訴訟に向けた戦略について弁護士が解説します。

慰謝料の法的本質と請求要件

1. 慰謝料の定義と二つの請求権

慰謝料とは、民法第709条が定める不法行為により、他者に与えた精神的苦痛(損害)を金銭で賠償するものです。離婚に関連する慰謝料には、主に以下の二種類があります。

種類

請求の根拠

請求相手

時効

離婚慰謝料

離婚の原因となった有責行為(不貞,DV、悪意の遺棄など)によって被った離婚自体の精神的苦痛。

有責配偶者(元配偶者)

離婚成立から3

不貞慰謝料

婚姻共同生活の平穏を壊す不貞行為(肉体関係を伴う浮気)により、配偶者としての権利を侵害された精神的苦痛。

不貞配偶者 および 不貞相手(第三者)

不貞の事実と相手方を知った時から3

2. 「有責性」と「因果関係」

慰謝料請求が認められるためには、請求する側が以下の二点を客観的な証拠をもって立証しなければなりません。

  1. 有責性の立証: 相手方に故意または過失による有責行為(不法行為)があったこと(例:不貞行為があった事実、DV行為があった事実)。
  2. 因果関係の立証: その有責行為によって、婚姻関係が破綻し、精神的苦痛を被ったこと。

特に「不貞慰謝料」においては、不貞行為の「肉体関係があったこと」を示す客観的な証拠(ホテルへの出入りがわかる写真、具体的なやり取りの記録など)がない場合、立証が困難となります。

離婚慰謝料の相場と裁判所の決定要因

離婚慰謝料の金額には明確な計算式は存在せず、裁判所は以下の諸事情を総合的に考慮して裁量で金額を決定します。

◇離婚慰謝料の金額を左右する主要な考慮要素

裁判所の実務(裁判例)において、慰謝料額に大きく影響するのは、主に以下の要素です。

考慮要素

金額への影響

詳細な着眼点

婚姻期間

長いほど高額になりやすい

婚姻生活が長期にわたるほど、その破綻による精神的苦痛は大きいとされる。

有責行為の態様

悪質性が高いほど高額になる

不貞行為の回数・期間、DVの頻度・程度、未成年の子への影響、反省の有無など。

子の有無と年齢

未成年の子がいる場合は増額傾向

幼い子どもがいる状況での不貞やDVは、子の養育環境の破壊につながるため、悪質性が高いと判断されやすい。

婚姻破綻の程度

完全な破綻であるほど高額

裁判所が有責行為によって婚姻関係が完全に破綻したと認定した場合、高額となる。

有責配偶者の経済力

高ければ高額になる傾向

賠償能力(資力)が高い場合、慰謝料の額も高くなりやすい。

 

有責配偶者からの離婚請求

1. 有責配偶者からの離婚請求は「原則不許可」

離婚の原因を作った側(有責配偶者)からの離婚請求は、原則として認められません。これは、自ら関係を破綻させた者が、相手方の意思に反して一方的に離婚を求めるのは信義則に反するという考えに基づきます。

2. 例外的に離婚請求が認められる場合

ただし、以下の厳格な条件を満たす場合、例外的に有責配偶者からの離婚請求が認められることがあります。

  1. 相当長期間の別居が続いていること。
  2. 夫婦間に未成年の子がいないこと。
  3. 相手方配偶者が、離婚によって精神的,社会的,経済的に過酷な状況に置かれない場合。

有責配偶者からの離婚請求については,別居期間が10年未満である場合には,裁判所は離婚請求を認めない傾向にあります。このような場合において,有責配偶者側として,どうしても離婚をしたい場合には,相場よりかなり高額の慰謝料を提示して,和解により離婚をまとめるより他ありません。

証拠保全と相手方の選択

1. 早期の証拠保全と時効の管理

慰謝料請求は、特に不貞行為に関する請求権の時効(不貞の事実と相手方を知ってから3年)が短いため、早期の弁護士相談と証拠保全が不可欠です。

  • 重要な証拠: 不貞相手とのLINEやメール(肉体関係を推認させる内容)、探偵による調査報告書、録音データなど。
  • 時効管理: 時効完成が迫っている場合は、内容証明郵便の送付などにより請求意思を明確し、時効中断の手続きを速やかに行う必要があります。

2. 請求相手の選択

不貞慰謝料は、配偶者と不貞相手の両方または一方に請求できます。実務では、以下の方法がとられることがあります。

  • 両者への請求: 両者に請求権を行使できますが、二重取りはできないため、最終的に受け取れる総額は変わりません。離婚が決定している場合,この方式をとることが一般的です。
  • 不貞相手のみへの請求: 配偶者との離婚をまだ悩んでいる場合は、まずは不貞相手のみを相手方として全額請求します。

まとめ

不貞が絡む慰謝料請求では,不貞行為の立証ができるかという点が重要となります。

特に,裁判所は客観的な証拠を重視しますので,探偵による調査報告書(ホテルに入る瞬間をとらえた写真),LINEでのやりとりのデータなどから不貞行為の有無を立証していくことになります。

探偵の調査報告書等の決定的な証拠がない事案においては,間接的な証拠を複数用意して不貞行為を立証していくことになりますが,相手方が不貞行為を否認する場合は,交渉での解決は困難であり,訴訟を見据えた対応が必要となります。

時間の経過により,LINEのやりとりが消されてしまうなど証拠が散逸してしまうこともありますので,早めに弁護士に相談することをお勧めいたします。

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