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【門前仲町 弁護士による徹底解説】自転車事故にかかわる法的責任

【門前仲町 弁護士解説】自転車事故の加害者・被害者になったら ― 9,500万円の高額賠償事例から学ぶ法的責任と必要な備え

福永法律事務所(門前仲町) 弁護士福永悦史執筆

はじめに:「たかが自転車」では済まされない厳しい現実

通勤や通学、買い物など、私たちの生活に身近で便利な自転車。しかし、その手軽さゆえに、交通ルール遵守の意識が薄れたり、「自分は加害者にはならない」という油断が生じがちではないでしょうか。

しかし、現実は非常に厳しいものです。過去には、小学生の少年が運転する自転車が歩行者に衝突し、被害者が意識不明の重体となった事故で、裁判所が少年の母親に対し9,521万円もの損害賠償を命じた事例があります(神戸地裁 平成2574日判決)。また、男子高校生が運転する自転車と衝突した会社員に重大な後遺障害が残った事故では、9,266万円の賠償が命じられています(東京地裁 平成2065日判決)。

これらの事例が示すように、自転車は時として人の命を奪い、あるいは人生を大きく変えてしまうほどの重大な結果を引き起こす「加害者の乗り物」となり得ます。そして、その法的責任は、自動車事故と同様、あるいはそれ以上に厳しいものとなる可能性があるのです。

本稿では、門前仲町で交通事故問題に注力する福永法律事務所の弁護士が、自転車事故に遭ってしまった「被害者の視点」と、万が一事故を起こしてしまった「加害者の視点」の両面から、負うべき法的責任、取るべき行動、そして不可欠な備えについて解説いたします。

加害者が負う「3つの責任」

自転車事故の加害者は、法律上、主に3つの重い責任を負う可能性があります。

1. 民事上の責任(損害賠償責任)

これが、被害者やご遺族の人生に最も直接的な影響を与える責任です。加害者は、自身の過失によって被害者に与えた損害を金銭で賠償する義務を負います(民法第709条 不法行為)。 賠償すべき損害には、治療費、通院交通費、休業損害、逸失利益、そして精神的苦痛に対する慰謝料など、自動車事故と全く同じ項目が含まれます。被害者に後遺障害が残ったり、死亡したりした場合には、冒頭で紹介したように、賠償額が数千万円から1億円近くと極めて高額になることも珍しくありません。

◇未成年者が加害者の場合

加害者である子どもに責任能力がない(概ね12歳以下)と判断される場合、その親権者などの監督義務者が代わりに損害賠償責任を負います(民法第714条)。冒頭の神戸地裁のケースでは、この監督義務違反が認定され、母親に高額な賠償が命じられました。

2. 刑事上の責任(刑罰)

悪質な運転によって人を死傷させた場合、刑事罰の対象となります。

◇過失傷害罪/過失致死罪/重過失致死傷罪

運転上の不注意(過失)で人を死傷させた場合、「過失傷害罪」/「過失致死罪」が成立します。さらに、信号無視、スマートフォンを操作しながらの運転(ながらスマホ)、無灯火運転、二人乗りなど、著しく注意義務に違反したと判断される「重過失」があった場合には、「重過失致死傷罪」となり、より重い刑罰が科される可能性があります。

3. 道路交通法上の責任

自転車は、道路交通法上「軽車両」に位置づけられています。したがって、自動車と同様に交通ルールを守る義務があります。信号無視、一時不停止、二人乗り、並進、無灯火、傘差し運転、スマートフォンやイヤホンの使用などは道路交通法違反であり、罰則の対象となります。

【加害者の方へ】事故を起こしてしまったら何をすべきか

万が一、あなたが自転車事故の加害者になってしまった場合、パニックに陥ることなく、冷静に、そして誠実に行動することが極めて重要です。初期対応を誤ると、法的な責任がさらに重くなる可能性があります。

1.直ちに運転をやめ、被害者を救護する(救護義務)

何よりもまず、被害者の安全確保が最優先です。意識や怪我の状況を確認し、必要であればためらわずに119番通報で救急車を呼びましょう。この救護義務を怠ってその場を立ち去る行為は「ひき逃げ」となり、極めて悪質と判断され、刑事・民事の両面で大変重い責任を問われます。

2.警察に連絡する(報告義務)

 怪我の有無や程度にかかわらず、必ず110番通報をしてください。警察への報告は法律上の義務です。警察が作成する実況見分調書などの交通事故に関する資料は、後の示談交渉や裁判において、事故状況を証明する極めて重要な証拠となります。

3.相手方の連絡先を確認し、誠実に対応する

被害者の方の氏名、住所、電話番号などを確認します。感情的にならず、まずは真摯にお詫びの気持ちを伝えることが大切です。ただし、その場で「全ての責任を負います」「いくらでも支払います」といった安易な約束(示談)は絶対にしてはいけません。

4.目撃者を確保し、証拠を保全する

もし事故の目撃者がいれば、連絡先を聞いておきましょう。スマートフォンなどで、事故現場の状況(道路の見通し、信号、自転車や被害者の転倒位置など)を様々な角度から撮影しておくことも、後の過失割合の判断で非常に重要になります。

5.保険会社に連絡する

後述する「個人賠償責任保険」に加入している場合は、速やかに保険会社に事故の報告をしてください。

【被害者の方へ】事故に遭ってしまったら何をすべきか

あなたが自転車事故の被害者になってしまった場合も、同様に冷静な初期対応が、後の正当な賠償請求のために不可欠です。

1.少しでも痛みがあれば、必ず病院へ

 事故直後は興奮していて痛みを感じなくても、後から「むちうち」などの症状が出てくることはよくあります。軽い怪我だと思っても、必ず整形外科などの医療機関を受診し、医師の診断を受けてください。診断書がなければ、人身事故として扱われず、治療費や慰謝料の請求が困難になる可能性があります。

2.加害者の情報を確認し、警察に届け出る

加害者の氏名、住所、電話番号、勤務先などを必ず確認してください。そして、加害者が届け出を渋ったとしても、必ず警察に連絡し、人身事故として処理してもらうことが重要です。

3.証拠を確保する

加害者の場合と同様に、目撃者の確保や現場写真の撮影は非常に有効です。

4.安易に示談に応じない

加害者から「警察を呼ばずに内々で示談してほしい」と持ちかけられることがあります。しかし、その場で示談してしまうと、後から症状が悪化しても、追加の治療費などを請求できなくなる可能性があります。絶対にその場での示談には応じず、まずは治療に専念してください。

損害賠償額の算定自動車事故との違いは?

自転車事故の損害賠償額の算定は、自動車事故と何か違いがあるのでしょうか。

結論から言うと、損害の項目(治療費、休業損害、逸失利益、慰謝料など)や、その算定基準(自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準)の考え方は、自動車事故の場合と全く同じです。

慰謝料や逸失利益に関する裁判所の判断基準が、自転車事故にも同様に適用されます。したがって、被害者は、弁護士に依頼することで、最も高額となる「裁判所基準」に基づいた賠償請求を行うことが可能です。

唯一の大きな違いは、自賠責保険の有無です。自動車には加入が義務付けられている自賠責保険がないため、加害者が任意保険(個人賠償責任保険)に加入していない「無保険」の場合、賠償金の回収が極めて困難になるという大きなリスクがあります。

万が一に備える「個人賠償責任保険」の重要性

自転車事故の高額賠償リスクから身を守るために、今や不可欠な備えといえるのが「個人賠償責任保険」です。

1. 個人賠償責任保険とは

個人賠償責任保険は、日常生活において、偶然の事故で他人に怪我をさせたり、他人の物を壊してしまったりして、法律上の損害賠償責任を負った場合に、保険金が支払われる保険です。

自転車事故だけでなく、

  • 子どもが遊んでいて友達に怪我をさせた
  • 買い物中に商品を落として壊してしまった
  • 飼い犬が散歩中に他人に噛みついてしまった といった、様々な日常生活のリスクをカバーしてくれます。

2. 自分の保険をチェックしよう

この保険は、単独の商品として販売されていることは少なく、多くは自動車保険、火災保険、傷害保険、クレジットカードなどの「特約」として付帯されています。多くの場合、家族全員が補償の対象となるため、ご自身やご家族が加入している保険にこの特約が付いていないか、今一度確認してみることが非常に重要です。

3. 自治体による保険加入の義務化

自転車事故の深刻化を受け、兵庫県、大阪府、東京都など、多くの自治体で自転車損害賠償保険等への加入が条例で義務化・努力義務化されています。保険への加入は、もはや自転車利用者の社会的な責務と言えるでしょう。

自転車事故で困ったら、まず弁護士へ

◇加害者になってしまった方へ

被害者への対応、警察への対応、そして高額な損害賠償請求への備えなど、事故直後から極めて困難な状況に直面します。特に保険に未加入の場合、被害者との示談交渉を個人で行うことは精神的にも大きな負担となります。弁護士が代理人として交渉することで、法的に適正な賠償額での解決を目指すことができます。

◇被害に遭われた方へ

加害者や保険会社との交渉は、専門知識がなければ対等に進めることはできません。弁護士に依頼することで、最も正当な「裁判所基準」での賠償請求を行い、適正な賠償額を獲得することが可能になります。特に、後遺障害が残るような重い事故の場合、弁護士のサポートは不可欠です。

福永法律事務所は、門前仲町に拠点を置き、交通事故の加害者側・被害者側双方の案件に対応しております。自転車事故という身近な問題に潜む法的なリスクを正しく理解し、最善の解決策を見つけるために、ぜひ一度、当事務所の弁護士にご相談ください。

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