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【門前仲町 弁護士解説】「私が父の介護を全て担ったのに…」相続の不公平を是正する「寄与分」制度の全知識
福永法律事務所(門前仲町)弁護士福永悦史執筆
はじめに:法定相続分だけでは割り切れない「貢献」への想い
「父が亡くなるまでの10年間、仕事を辞めて身の回りの世話を全て私が見てきました。他の兄弟は遠方に住み、たまに顔を見せるだけ。それなのに、遺産を法定相続分で平等に分けるというのは、あまりにも不公平ではないでしょうか?」
相続をめぐる問題は、単なる財産の分配にとどまりません。そこには、家族それぞれの歴史や、故人への想い、そして貢献に対する評価といった、数字だけでは割り切れない感情が複雑に絡み合っています。特に、被相続人の生前の療養看護や家業への貢献を一身に担ってきた相続人にとって、他の相続人との形式的な「平等」は、受け入れがたい「不公平」と感じられることが少なくありません。
このような、相続人間の実質的な公平を図るために、民法には「寄与分」という制度が設けられています。これは、被相続人の財産の維持または増加に「特別な貢献」をした相続人が、その貢献度に応じて法定相続分以上の財産を取得できるという、極めて重要な権利です。
しかし、「どの程度の貢献であれば“特別”と認められるのか」「自分の貢献は、具体的にいくらと評価されるのか」「相続人ではない親族(例えば子の配偶者)の貢献はどうなるのか」といった点は、法律の専門知識なくして正しく主張・立証することは非常に困難です。
本稿では、福永法律事務所の弁護士が、この「寄与分」制度の基本から、2019年の法改正で新設された相続人以外の親族のための「特別寄与料」制度、そして裁判所が実務上どのように貢献度を評価・算定するのかまで専門的な知見に基づき、徹底的に解説いたします。
「寄与分」とは何か? — 制度の趣旨と法的根拠
寄与分制度を理解するためには、まずその根底にある法律の考え方を知ることが不可欠です。
1. 民法904条の2と「実質的公平」の理念
寄与分制度は、民法第904条の2に規定されています。
(寄与分)
第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
この条文の核心は、共同相続人間の「実質的公平」の実現にあります。法定相続分という形式的な均等分配を基本としつつも、それだけではあまりに不公平な結果となる場合に、特定の相続人の特別な貢献を金銭的に評価し、相続分に上乗せすることを認めるものです。
つまり、寄与分とは、相続財産が現在の価値で存在するのは、その人の貢献があったからだ、という因果関係を法的に評価する制度といえます。
2. 寄与分が認められるための3つの基本要件
寄与分が法的に認められるためには、以下の3つの要件を全て満たす必要があります。
① 寄与行為者が「共同相続人」であること
寄与分を主張できるのは、原則として、亡くなった方の配偶者や子など、法律上の「相続人」に限られます。したがって、例えば長男の妻が義父の介護に長年尽くしていても、その妻自身は相続人ではないため、原則として寄与分を主張することはできませんでした。
(※この問題を解消するために、2019年の法改正で「特別寄与料」の制度が新設されました。これについては後述する「特別寄与料」制度の項で詳しく解説します。)
②「特別の寄与」であること
これが最も重要な要件です。夫婦間の協力・扶助義務(民法752条)や、親族間の扶養・扶助義務(民法877条)の範囲内で行われるような、通常の期待を超える程度の貢献でなければ「特別」とは認められません。
例えば、子が親の面倒を見るのはある程度当然と考えられており、時々実家に帰って身の回りの世話をする、お見舞いに行くといった行為だけでは、「特別の寄与」とは評価されにくいのが実情です。
③ 寄与行為によって被相続人の財産が「維持」または「増加」したこと
寄与者の行為と、相続財産の結果との間に因果関係が必要です。いくら献身的な貢献であっても、それが結果的に財産の維持・増加に繋がっていなければ、寄与分は認められません。例えば、精神的な支えになったというだけでは、通常は寄与分として金銭評価することは困難です。
裁判実務では、寄与行為の内容によって、主に以下の5つの類型に分類して「特別の寄与」にあたるか否かが検討されます。
1. 家業従事型
被相続人が経営する商店や工場、農業などの事業について、相続人が無報酬または著しく低い報酬で長期間にわたり働き、その事業の維持・発展に貢献した場合です。
2. 金銭等出資型
相続人が、被相続人の事業資金や不動産購入資金を援助したり、被相続人が負っていた借金を代わりに返済したりして、財産の維持・増加に直接的に貢献した場合です。
3. 療養看護型
相続人が、病気や高齢の被相続人に対して、療養看護を長期間にわたり行ったことで、本来であれば必要だったであろう看護師やヘルパーの費用支出を抑え、結果として財産が維持された場合です。これが実務上、最も多く主張される類型です。
4. 扶養型
被相続人が生活に困窮しており、相続人が定期的に金銭を仕送りするなどして扶養し、それによって被相続人の財産の減少が防がれた場合です。
5. 財産管理型
相続人が、被相続人に代わって、被相続人所有の賃貸アパートの管理や土地の売却交渉などを行い、財産の価値を維持したり、有利な条件で売却して財産を増加させたりした場合です。
前述の通り、従来の寄与分制度は「相続人」にしか認められず、大きな問題がありました。最も典型的なのが、長男の妻(相続人ではない)が、何十年にもわたり義父母の介護に尽くしてきたにもかかわらず、一切法的に評価されないというケースです。
この深刻な不公平を解消するため、2019年7月1日に施行された改正民法で、相続人以外の親族の貢献を金銭的に評価する「特別寄与料」の制度(民法1050条)が創設されました。
1. 「特別寄与料」とは何か
特別寄与料とは、被相続人の親族(相続人を除く)が、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加に「特別の寄与」をした場合に、相続人に対して金銭の支払を請求できる制度です。
2. 寄与分との主な違い
| 寄与分 | 特別寄与料 | |
| 請求できる人 | 共同相続人 | 被相続人の親族(相続人、相続放棄者、欠格・廃除者を除く) |
| 手続き | 遺産分割協議,調停・審判の中で主張 | 相続人との協議,調停・審判の中で主張 |
| 権利の内容 | 遺産分割における相続分の増額 | 相続人に対する金銭支払請求権 |
重要なのは、特別寄与料は遺産分割そのものに参加する権利ではなく、あくまで相続人たちに対して「私の貢献分をお金で支払ってください」と請求する権利であるという点です。
3. 特別寄与料が認められるための要件
4. 請求期間の制限(時効)
特別寄与料の請求には、寄与分と異なり、厳格な期間制限が設けられています。
このいずれか早い期間を経過すると、請求できなくなってしまいます。非常に短期間であるため、権利があると思われる場合は、速やかに行動を起こす必要があります。
寄与分や特別寄与料が認められるとして、その金額はどのように計算されるのでしょうか。法律に具体的な計算式が定められているわけではなく、最終的には裁判所の裁量に委ねられます。しかし、実務上、特に主張の多い「療養看護型」については、ある程度確立された計算方法が存在します。
1. 療養看護型の寄与分の基本的な計算式
家庭裁判所の実務では、多くの場合、以下の計算式をベースに寄与分が算定されます。
寄与分額 = ①介護の日当額 × ②介護日数 × ③裁量割合
2. 各要素の解説
① 介護の日当額
寄与者が介護を行ったことに対する1日あたりの評価額です。裁判所は、厚生労働省が定める介護保険サービスの介護報酬基準などを参考にしますが、あくまで専門職の報酬であるため、その額がそのまま適用されるわけではありません。
実務上は、介護の負担の程度に応じて日額5,000円〜10,000円程度の範囲で認定されることが多いですが、近年の裁判例では8,000円程度を基準とするケースが多く見られます。要介護度が高く、排泄介助や夜間の見守りなど、特に負担が重い場合には、日当額が増額される可能性があります。
② 介護日数
実際に療養看護を行った日数です。入院期間などを除いた、在宅での介護期間が対象となります。
③ 裁量割合
これが最も専門的な判断を要する部分です。上記①と②を掛け合わせた金額から、一定の割合が「裁量」によって減額されます。これは、以下の要素を考慮するためです。
実務上、この裁量割合は0.5〜0.9程度の範囲で判断されることが多いです。
3. その他の類型の算定方法
(寄与者が本来受け取るべきであった年間給与額 − 実際に受け取っていた給与額)× 貢献年数 × 裁量割合
原則として出資した金銭の額をベースに、貨幣価値の変動や、その後の利息などを考慮して算定されます。
これらの計算は非常に複雑であり、どのような要素がどう評価されるかは事案によって大きく異なります。
寄与分は、自動的に認められるものではありません。権利があると考える相続人が、自らその事実を主張し、証拠によって証明する必要があります。
1. 手続きの流れ
① 遺産分割協議:まず、共同相続人全員での話し合いの場で、自身の寄与分を主張し、具体的な金額を提示して協議します。ここで全員が合意すれば、その内容を遺産分割協議書に明記します。
② 遺産分割調停:協議で合意に至らない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停の場で、自身の寄与行為を具体的に主張し、それを裏付ける証拠を提出します。調停委員は、双方の主張と証拠を踏まえ、解決案を提示します。
③ 遺産分割審判:調停でも話がまとまらない場合は、自動的に審判手続に移行します。審判では、裁判官が全ての証拠を精査し、寄与分の有無や額について法的な判断(審判)を下します。
2. 立証責任と必要となる証拠
寄与分を主張する側に、その「特別な寄与」の事実を立証する責任があります。過去の貢献を客観的に証明するのは容易ではありませんが、以下のような証拠をできるだけ多く集めることが重要です。
過去の貢献であるほど、記憶は曖昧になり、証拠も散逸しがちです。「いつか主張するかもしれない」と考え、日頃から記録を残しておく意識が非常に重要となります。
貢献が正当に評価されるために
寄与分制度は、相続における実質的な公平を実現するための重要な武器です。しかし、その主張と立証は、法的な専門知識と戦略がなければ極めて困難です。感情的な対立が深まる前に、また、証拠が失われてしまう前に、できるだけ早い段階で専門家である弁護士に相談することが、あなたの正当な貢献を法的に評価させるための最善の道です。
福永法律事務所は、門前仲町に拠点を置き、裁判官の論文や最新の裁判例を常に研究し、相続実務の動向を深く理解しております。あなたの長年のご苦労や貢献が、法的に正当な評価を受けることができるよう、証拠収集の段階から遺産分割協議、調停・審判に至るまで、親身に、そして力強くサポートいたします。
初回のご相談は無料です。一人で悩まず、まずは私たち門前仲町の弁護士に、あなたの想いをお聞かせください。
大切な方が亡くなられた後、ご遺族には悲しみと同時に、様々な手続きや問題が降りかかってきます。特に、遺産分割は、相続人同士の意見がまとまらず、ご家族の関係に深い溝を作ってしまうことがあります。
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