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【門前仲町・江東区】使途不明金にかかわる諸問題|福永法律事務所弁護士が解説

【門前仲町 弁護士解説】親の預金が亡くなる直前に不自然に減っている… 相続人間の「預金の使い込み」を取り戻す法的手段

福永法律事務所(門前仲町) 弁護士福永悦史執筆

はじめに:相続財産に潜む「使い込み」という大きな火種

「父が亡くなり、遺産を整理していたところ、亡くなる数年前から預金口座から多額の現金が頻繁に引き出されていることがわかった。当時、父と同居していた兄が管理していたはずだが、何に使ったのか説明してくれない。これは泣き寝入りするしかないのだろうか?」

相続の現場において、このような被相続人の生前の預金引き出し、いわゆる「使い込み」の問題は、最も深刻かつ感情的な対立を生みやすいトラブルの一つです。特に、被相続人が高齢で判断能力が低下していた場合、その預金を管理していた特定の相続人による不透明な出金は、他の相続人にとって大きな不信感と不公平感の原因となります。

このような「使い込み」が疑われる場合、決して諦める必要はありません。法律は、不当に失われた財産を取り戻すための手段を用意しています。しかし、そのためには客観的な証拠に基づき、法的に正しい手続きを踏むことが不可欠です。

本稿では、門前仲町で相続問題に注力する福永法律事務所の弁護士が、この「預金の使い込み」問題について、法的な考え方、調査方法、そして財産を取り戻すための具体的な手続きまで、裁判所の実務運用をふまえて徹底的に解説いたします。

法的に見た「預金の使い込み」とは何か

まず、被相続人名義の預金口座から第三者が現金を引き出す行為が、法的にどのように評価されるのかを理解する必要があります。

1. 預金の法的性質と返還請求権

被相続人名義の預金は、被相続人が金融機関に対して有する「預金返還請求権」という債権です。相続人であっても、被相続人の生前にその預金を無断で引き出し、自己のために費消(使い込み)する権限はありません。

もし、権限なく引き出された預金が、被相続人本人のため(例えば、医療費、介護費、生活費など)に使われたのであれば、法的には問題となりません。しかし、引き出した相続人自身の遊興費や生活費、借金返済などに充てられた場合、それは被相続人の財産を不当に侵害する行為となります。

この場合、被相続人は、その引き出した者に対して、不当利得返還請求権(民法703条)または不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)を取得します。そして、被相続人が亡くなった後は、この返還請求権自体が相続財産となり、遺産分割の対象となるのです。

2. 誰が証明しなければならないのか(立証責任)

裁判手続きにおいては、「使い込みがあった」と主張する側(他の相続人)が、原則として、誰が、いつ、いくら引き出したのかを立証する必要があります。 一方で、引き出したとされる側は、「その引き出した金銭は、被相続人のために使った」「被相続人から贈与された」といった事実(正当な権限)を主張・立証していくことになります。

調査の第一歩 ― 取引履歴の取得と分析

「使い込み」の疑いが生じたら、まずは感情的に相手を問い詰めるのではなく、客観的な証拠を収集することが不可欠です。その最も基本的かつ重要な証拠が、金融機関の取引履歴明細書です。

1. 取引履歴の取得方法

被相続人の相続人であれば、戸籍謄本等で相続関係を証明することにより、被相続人が口座を持っていた金融機関に対し、取引履歴の開示を請求することができます。通常、金融機関所定の用紙に必要事項を記入し、以下の書類を提出します。

  • 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本(または除籍謄本)
  • 請求者が相続人であることがわかる戸籍謄本
  • 請求者の本人確認書類、実印、印鑑証明書

金融機関にもよりますが、過去10年程度の取引履歴であれば取得できることが一般的です。

2. 取引履歴の分析ポイント

取得した取引履歴は、以下の点に注意して精査します。

  • 不自然な高額出金:それまでの生活実態からは考えられないような、まとまった金額の出金がないか。
  • 頻繁な出金:特に被相続人が入院したり、判断能力が低下したりした時期以降に、ATMからの現金引き出しが頻繁になっていないか。
  • 出金方法:窓口での高額な払戻請求の場合、払戻請求書を取り寄せることで、誰の筆跡で書かれたのかを確認できる場合があります。ATMでの出金の場合、時間帯や場所から誰が引き出したかを推測できることもあります。
  • 残高の推移:相続開始時に預金がほとんど残っていなくても、過去に遡ると相当額の預金があったことが判明するケースは少なくありません。

相手方のよくある反論と、それに対する法的検討

取引履歴を基に使い込みの事実を指摘すると、引き出したとされる相続人からは、様々な反論がなされるのが通常です。ここでは、実務上よく見られる3つの反論と、それに対する法的な考え方、裁判所の判断傾向を解説します。

反論:「親の生活費や医療費、介護費用に使った」(立替・使途の問題)

これは最も多い反論です。被相続人のために使ったという主張自体は正当ですが、問題はその立証です。

  • 裁判所の判断傾向: 裁判所は、引き出した相続人に対し、その使途を具体的に明らかにするよう求めます。単に「生活費に使った」という漠然とした主張だけでは不十分で、医療費や介護施設費の領収書、大きな買い物のレシートなど、客観的な資料によって支出を裏付ける必要があります。 また、引き出された金額が、被相続人の当時の生活レベルや資産状況に照らして社会通念上相当な範囲であるかも検討されます。例えば、月々の年金収入で生活費が十分賄えていたにもかかわらず、多額の現金が引き出されていた場合、その必要性について合理的な説明が求められます。

反論:「親からもらったものだ」(生前贈与の主張)

次に多いのが、引き出した金銭は被相続人から生前に贈与されたものである、という反論です。

  • 裁判所の判断傾向: 生前贈与が有効に成立するためには、贈与者(被相続人)に贈与をする意思と、その前提となる意思能力(判断能力)があったことが必要です。 特に、引き出しが被相続人の認知症の症状が進行した時期と重なる場合、裁判所は贈与の有効性を厳しく判断します。贈与契約書などの書面がない場合、贈与の事実を認定するのは容易ではありません。 また、仮に生前贈与であったと認められた場合でも、それが他の相続人との関係で不公平な「特別受益」にあたるとして、遺産分割において考慮される可能性があります。

反論:「親に頼まれて引き出し、現金で渡した」(預かり金の主張)

「本人の指示で現金を引き出し、そのまま本人に渡した(あるいは本人のために現金で保管していた)」という反論です。

  • 裁判所の判断傾向: この主張も、引き出した相続人側に立証責任があります。「いつ、どこで、いくら渡したのか」を具体的に主張し、それを裏付ける状況証拠(被相続人の当時の言動、現金を必要とする事情など)を示す必要があります。 被相続人が現金を必要とする合理的な理由が見当たらず、また、渡したとされる現金が被相続人の手元に残っていない場合、この反論が認められるのは困難です。裁判所は、引き出した相続人がその現金を自己のために費消したのではないかと強く推認することになります。

失われた財産を取り戻すための法的手続き

使い込みの事実が疑われ、当事者間の話し合いで解決しない場合、法的な手続きによって解決を図ることになります。

ステップ1:遺産分割協議・調停

まず、相続人全員で行う遺産分割協議の場で、調査した取引履歴を基に使い込みの事実を指摘し、その返還を求めます。具体的には、使い込まれた金額を「みなし相続財産」に含めて遺産総額を算定し、引き出した相続人の具体的相続分からその分を差し引く、という清算方法を提案するのが一般的です。

協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停では、調停委員が間に入り、双方の主張と証拠を整理し、法的な観点も踏まえながら合意形成を目指します。使い込みの返還についても、遺産分割全体の解決の一環として話し合われます。

ステップ2:不当利得返還請求訴訟

遺産分割調停・審判の手続きでは、前提問題として使い込みの有無を判断することがありますが、当事者間の対立が激しく、事実関係の認定に複雑な証拠調べが必要な場合、家庭裁判所の遺産分割手続きとは別に、地方裁判所不当利得返還請求訴訟(または損害賠償請求訴訟)を提起する必要があります。

この訴訟では、原告(請求する相続人)が、被告(引き出した相続人)の使い込みの事実を証拠に基づいて立証し、裁判所に返還を命じる判決を求めます。これは非常に専門的な訴訟手続きであり、弁護士のサポートが不可欠です。

「使い込み」で悩んだら、まず弁護士へ

被相続人の預金の使い込み問題は、親族間の感情的な対立を激化させやすく、当事者だけで冷静に解決することは極めて困難です。また、過去の事実を証拠によって証明するという作業は、法律の専門家でなければ適切に行うことはできません。

もしあなたが、「親の預金が不自然に減っている」という疑念を抱かれたなら、一人で悩まず、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。時間が経てば経つほど、証拠は散逸し、関係者の記憶も曖昧になってしまいます。

福永法律事務所は、門前仲町に拠点を置き、相続問題、特に遺産分割における紛争解決に豊富な経験を有しております。裁判官の論文や最新の裁判例を常に分析し、ご相談者様の状況に即した最善の法的戦略をご提案いたします。証拠収集のためのアドバイスから、相手方との交渉、調停・訴訟手続きまで、一貫してあなたをサポートします。

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