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【門前仲町・江東区】相続不動産の管理・占有にかかわる諸問題|福永法律事務所弁護士が解説

【門前仲町 弁護士解説】遺産分割協議が終わるまでの家賃収入は誰のもの?相続不動産の管理・占有・費用負担の全論点

福永法律事務所(門前仲町) 弁護士福永悦史

はじめに:相続開始から遺産分割成立までの「空白期間」に生じる問題

「父が亡くなってから半年、遺産分割の話し合いがまとまらない。その間、父が所有していた賃貸アパートの家賃は、長男である兄がすべて管理しているが、私たち他の兄弟に分配されることはないのだろうか?」 「母が亡くなった後、実家には弟が一人で住み続けている。その間の固定資産税は誰が払うべきなのか。弟に家賃を請求することはできないのだろうか?」

相続が発生した瞬間から、遺産分割協議が成立し、名義変更などの手続きが完了するまでの間には、数ヶ月から時には数年という期間を要することがあります。この「空白期間」ともいえる間、被相続人が遺した財産の管理や、そこから生じる利益(賃料など)、そして発生する費用(税金など)の帰属をめぐって、相続人間で深刻なトラブルに発展するケースは少なくありません。

これらの問題は、感情的な対立だけでなく、法律上の権利関係が複雑に絡み合うため、当事者間での解決が非常に困難です。

本稿では、門前仲町で相続問題に注力する福永法律事務所の弁護士が、遺産分割が完了するまでの相続不動産の管理・占有をめぐる典型的な問題について、最高裁判例などに基づき、徹底的に解説いたします。

遺産分割前の相続財産の法的地位 —「共有」状態とは

相続に関するトラブルの根源を理解するためには、まず、被相続人が亡くなった瞬間から遺産分割が完了するまでの間、遺産がどのような法的状態にあるかを知る必要があります。

原則は相続人全員の「共有」

被相続人の死亡により相続が開始されると、相続財産は、遺産分割が完了するまでの間、原則として相続人全員の「共有」状態に置かれます(民法第898条)。各相続人は、それぞれの法定相続分に応じた持分(権利の割合)を有することになります。

◇【重要】預貯金の扱いに関する最高裁判例の変更

かつて最高裁判所は、預貯金のような金銭債権(可分債権)は、相続開始と同時に、法律上当然に各共同相続人にその法定相続分に応じて分割されるものと考えていました(当然分割説)。 しかし、この考え方は実務上の慣行と乖離していることなどから、最高裁判所は平成281219日の大法廷決定によってこの判例を変更しました。

この新しい判例は、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」と判示しました。

これにより、現在の法解釈では、預貯金も不動産と同様に遺産分割の対象となり、遺産分割が完了するまでは相続人全員の共有(法律的には「準共有」)に属することが確定しています。この「遺産は原則として全て共有財産となる」という点が、以下の議論の出発点となります。

ケース1:賃貸不動産から生じる「賃料」の帰属と遺産分割の影響

被相続人が賃貸アパートなどを所有していた場合、相続開始後も毎月賃料が発生します。この賃料の法的な扱いは、相続財産そのものとは異なるため、注意が必要です。

1. 最高裁判所の判断賃料は「遺産」ではなく「各相続人の固有財産」

この重要な論点について、最高裁判所は明確な判断を示しています(最高裁平成1798日判決)。

結論として、相続開始から遺産分割成立までの間に、相続不動産から生じた賃料(法律的には「果実」といいます)は、遺産分割の対象となる「遺産」そのものではなく、各共同相続人がその法定相続分に応じて、分割単独債権として確定的に取得するものと解されています。

これは、遺産の元となる不動産(元物)は共有状態にありますが、そこから生じる賃料債権は、時の経過に応じて発生する「可分債権(分割できる債権)」であり、その発生と同時に法律上当然に各共有者(相続人)にその持分(法定相続分)の割合で帰属するという考え方に基づいています。

2. 遺産分割の遡及効は賃料に及ぶか?

民法第909条は、「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる」と定めています。これを遺産分割の遡及効といいます。 では、遺産分割協議の結果、特定の相続人(例えば長男)がその賃貸アパートを単独で取得することになった場合、この遡及効によって、相続開始時から発生していた全ての賃料も長男が取得できることになるのでしょうか。

答えは「No」です。 前述の最高裁判例は、この遡及効が遺産分割前の賃料債権の帰属には影響を及ぼさないことを明確にしています。つまり、遺産分割がどのように成立したとしても、分割成立前に発生した賃料は、あくまで発生時点で各相続人が法定相続分に応じて取得した固有の財産であり、後から特定の相続人のものになるわけではありません。

3. 実務上の帰結と対処法

この最高裁の考え方から、以下の重要な帰結が導かれます。

  • 遺産分割協議を待たずに請求可能
     各相続人は、他の相続人の同意や遺産分割協議の成立を待つことなく、賃借人に対し、自己の法定相続分に相当する賃料を直接請求することができます
  • 特定の相続人が賃料を独占している場合
     もし、相続人の一人が全ての賃料を受領・管理している場合、他の相続人はその相続人に対し、自己の法定相続分に相当する金銭の支払を求める不当利得返還請求を行うことができます。これは遺産分割とは別の民事訴訟で解決を図るのが原則です。
  • 実務運用:調停・審判での柔軟な解決
     とはいえ、賃料の問題を別訴で争うのは当事者にとって負担が大きいため、実務上は、遺産分割調停の場で、相続人全員の合意があれば、この相続開始後の賃料についても遺産分割の対象財産に含めて、最終的な取得分を調整する(いわゆる「清算的解決」)ことも多く行われています。

ケース2:相続人の一人が遺産である家に住み続けている場合

被相続人と同居していた相続人が、相続開始後も引き続きその家に無償で住み続けているケースも非常に多く見られます。

1. 被相続人との間に「使用貸借契約」があったと認められる場合

もし、被相続人が生前から、その相続人に対して「家賃は要らないから、この家に住んでよい」と明示または黙示に許可していた場合、両者の間には「使用貸借契約(無償で物を貸す契約)」が成立していたと解釈されます。

  • 相続開始後の扱い
     このような使用貸借契約は、特段の事情がない限り、遺産分割が完了するまでの間は存続すると考えるのが一般的です。
  • 結論
     この場合、他の相続人は、住み続けている相続人に対して家賃相当額を請求することはできません

2. 特段の合意がなかったと認められる場合

一方で、無償で居住させる旨の明確な合意がなかったと判断される場合、法律関係は異なります。

  • 相続開始後の扱い
     相続開始によって不動産は相続人全員の共有となり、特定の相続人が単独で居住する法的な権原(権利の根拠)は失われます。
  • 結論
     この場合、他の相続人は、住み続けている相続人に対し、自己の法定相続分に応じた賃料相当損害金(不当利得)の支払を請求することができます。

裁判になった場合、「使用貸借契約があった」という事実は、無償で住み続けている相続人側が主張・立証しなければなりません。

相続不動産の費用負担(固定資産税・管理費)

遺産分割前の共有期間中、相続不動産には固定資産税やマンションの管理費・修繕積立金などの費用が継続的に発生します。これらの費用は誰が負担すべきなのでしょうか。

法的性質と負担割合

固定資産税や管理費などは、共有物の管理費用(民法第253条)と解されます。したがって、これらの費用は、各共同相続人がその法定相続分に応じて負担するのが原則です。

実務上の処理

  • 代表相続人による立替払い: 多くの場合、相続人の代表者(例えば、被相続人と同居していた相続人や、賃料を管理している相続人)が、一旦これらの費用を立て替えて支払います。
  • 求償権の発生: 費用を立て替えた相続人は、他の相続人に対し、その法定相続分に応じた負担額を請求する権利(求償権)を取得します。
  • 賃料収入との相殺: 賃貸不動産の場合、管理している相続人が、受け取った賃料収入からこれらの費用を支払い、残額を分配するという処理が合理的です。
  • 遺産分割における清算: これらの立替金(求償権)も、最終的には遺産分割協議や調停の場で、各相続人の具体的取得額を算定する際に考慮され、清算的に解決されるのが一般的です。もし特定の相続人が負担すべき分を支払わなければ、その分を最終的な相続取得分から差し引くといった調整が行われます。

紛争の解決方法協議から法的手続きへ

これらの問題を解決するための手続きは、段階的に進めるのが一般的です。

  1. 当事者間の協議(話し合い): まず、相続人全員で話し合いの場を持ち、賃料の分配方法や費用負担、居住を続ける相続人の処遇について協議します。
  2. 遺産分割調停: 協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。前述の通り、賃料や費用負担の問題も、遺産分割全体の包括的な解決を目指して話し合われることがほとんどです。
  3. 民事訴訟: 調停でも合意に至らない場合や、遺産分割とは切り離して金銭請求のみを確定させたい場合には、地方裁判所に民事訴訟(不当利得返還請求訴訟など)を提起する必要があります。

トラブルを未然に防ぐための生前対策

相続開始後の不動産管理をめぐるトラブルは、被相続人が生前に適切な対策を講じておくことで、その多くを防ぐことができます。最も有効なのは、遺言書の作成です。

遺言書によって、特定の不動産を誰に相続させるかを明確に指定しておけば、相続開始と同時に所有権の帰属が確定し、共有状態は生じません。また、遺言で遺言執行者を指定しておけば、その者が相続財産を管理する権限を持つため、賃料の回収や管理、費用の支払いをスムーズに行い、相続人間の紛争を予防することができます。

福永法律事務所は、門前仲町に拠点を置き、相続問題に関する豊富な経験と専門知識を有しております。相続財産の管理で他の相続人と揉めてしまった、あるいは将来の紛争を予防するための遺言作成を検討したい、といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、当事務所の弁護士にご相談ください。最新の裁判例を常に分析し、あなたの状況に即した最善の解決策をご提案いたします。

相続・遺産分割でお困りなら

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当事務所は、ご相談者様の心に寄り添い、円満な解決に向けて最善を尽くします。

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