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【門前仲町 弁護士による徹底解説】素因減額にかかわる諸問題

【門前仲町 弁護士解説】「元々、首が悪かったから」被害者の持病(既往症)は賠償額にどう影響する?「素因減額」の考え方と反論方法

福永法律事務所(門前仲町) 弁護士福永悦史執筆

はじめに:保険会社からの一方的な「減額通知」

「交通事故の治療を続けていたところ、相手方の保険会社から『MRI画像を見ると、事故前から首の骨に変形が見られます。これは今回の損害に影響しているので、賠償金を減額します』と言われてしまった。痛みの原因は明らかに事故なのに、納得がいかない

被害者が事故前から何らかの身体的な特徴や疾患(既往症)を持っていた場合に、それを理由に賠償額を減額することを、法律の世界では「素因減額」と呼びます。これは、損害の公平な分担という観点から認められている法的な考え方ですが、保険会社は   しばしばこの「素因減額」を拡大解釈し、本来であれば減額すべきでないケースでまで、一方的に賠償金の減額を主張してくることがあるのです。

しかし、被害者側に何らかの身体的要因があったからといって、常に賠償金が減額されるわけではありません。これまでの裁判例では、裁判所は素因減額を認めるにあたり、非常に厳格な基準を設けています。

本稿では、門前仲町で交通事故に注力する福永法律事務所の弁護士が、この複雑な「素因減額」の問題について、どのような場合に減額が認められ、どのような場合は認められないのか、その法的な考え方を,裁判例や裁判所の実務運用を基に、徹底的に解説いたします。

「素因減額」とは何か?法的な考え方と根拠

1. 損害の公平な分担

素因減額とは、交通事故によって損害が発生・拡大した原因が、加害者の行為だけでなく、被害者自身が持っていた要因(素因)も寄与している場合に、その寄与の程度に応じて損害賠償額を減額調整することをいいます。これは、損害の全てを加害者に負担させることが、かえって不公平になる場合があるという、損害の公平な分担という理念に基づいています。

この考え方を確立した最高裁判所の判例(最高裁昭和63421日判決)は、被害者が有していた身体的な要因が「疾患」にあたる場合には、賠償額を減額することができる、との枠組みを示しました。加害者は、事故当時の被害者のありのままの状態で損害を賠償する責任を負うのが原則ですが、その「ありのままの状態」が平均的な健康状態からかけ離れた「疾患」であった場合には、例外的に減額を考慮するという考え方です。

2. 素因減額の2つのタイプ

素因減額は、被害者が持っていた要因の種類によって、大きく二つに分類されます。

  • 身体的素因:被害者が事故前から持っていた身体的な疾患(持病)や解剖学的な特徴を指します。本稿では、主にこちらについて詳しく解説します。
  • 心因的素因:被害者の性格傾向(うつ病になりやすいなど)や精神的な疾患が、損害の発生・拡大に影響した場合です。裁判所は、心因的素因による減額には非常に慎重な姿勢をとっており、よほど極端なケースでなければ認められないのが実情です。

減額の対象となるのは「疾患」のみ「単なる身体的特徴」との境界線

素因減額の議論において、最も重要な核心部分は、被害者が持っていた要因が、減額の対象となる「疾患」なのか、それとも減額すべきでない「単なる身体的特徴(個性)」なのか、という区別にあります。

◇原則:加害者はありのままの被害者を受け入れる

損害賠償の基本的な考え方として、加害者は、被害者がたまたま平均的な人より身体的に弱い部分があったとしても、その結果について責任を負うのが原則です。被害者がどのような身体的特徴を持っているかは偶然の事情であり、そのリスクを加害者が負うべきと考えられているからです。

◇裁判実務における「疾患」と「身体的特徴」の区別

  • 減額の対象となる「疾患」
     裁判所が減額を検討するのは、被害者が持っていた要因が、単なる個体差の範囲を超え、医学的に見て「病気」と診断される状態であり、かつ、その疾患がなければ通常発生しないような損害が発生した、あるいは損害が異常に拡大したと認められる場合に限られます。 つまり、「事故による損害」と「疾患による損害」を切り分けることができず、疾患が損害の拡大に明確に寄与したといえる場合に、公平の観点から減額が考慮されるのです。
  • 減額の対象とならない「単なる身体的特徴(個性)」
     一方で、以下のようなものは、病気ではなく個人の身体的特徴の範囲内とされ、原則として素因減額の対象とはなりません
    • 年齢相応の骨の変性(加齢性変性)
       MRI画像などを見ると、中高年の方の頚椎や腰椎には、多かれ少なかれ、加齢に伴う骨の変形(椎間板の膨隆、骨棘形成など)が見られます。これらは病気ではなく、誰にでも起こりうる生理的な変化です。したがって、保険会社がこれを理由に減額を主張してきても、裁判所は原則としてこれを認めません。
    • 無症状の骨の変形や特徴
       例えば、事故前から頚椎の後ろに骨の出っ張りがあったとしても、それが事故前には全く症状を引き起こしていなかった場合、それは単なる身体的特徴に過ぎないと評価されるべきです。事故という外力が加わらなければ症状が出なかった以上、その損害の全責任を加害者が負うのが原則となります。

保険会社は、MRI画像に少しでも変性が見られると、一律に「既往症」と決めつけて減額を主張してきますが、それが法的に減額事由となる「疾患」なのか、それとも減額すべきでない「身体的特徴」なのかを、医学的知見に基づいて峻別し、反論することが極めて重要です。

実務で争点となる具体的なケースと裁判所の判断傾向

1. 頚椎・腰椎の疾患

むち打ち損傷などの事案で、素因減額が最も争点となりやすいのが、頚椎や腰椎に既存の疾患があった場合です。

  • 後縦靭帯骨化症(OPLL)、びまん性特発性骨増殖症(DISH
     これらは、脊椎の靭帯が骨化したり、骨が増殖したりする明確な「疾患」です。これらの疾患がある被害者が比較的軽微な事故で重い脊髄損傷を負った場合、その疾患が損害の拡大に寄与したとして、20%30%程度の素因減額が認められることがあります。
  • 脊柱管狭窄症
     加齢などにより脊髄が通る管(脊柱管)が狭くなる状態です。これも「疾患」にあたりますが、事故前には全く症状がなかった(無症状であった)にもかかわらず、事故をきっかけに症状が出現した場合(いわゆる外傷後発症)、減額が否定されたり、減額率が低く(10%20%程度)抑えられたりする傾向にあります。事故がなければ症状が出なかった以上、加害者が全責任を負う原則に近くなるためです。
  • 椎間板ヘルニア
    事故前からヘルニアが存在していた場合も争点となりますが、これも事故前に無症状であった場合は、減額が認められないことが多いです。

2. 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)

骨が脆くなる骨粗鬆症も「疾患」にあたりますが、これが減額事由となるかは慎重に判断されます。特に高齢の女性の場合、骨粗連症は非常に多く見られるため、ある程度は「個体差」の範囲内と考えるべきであるとの議論もあります。裁判所も、軽度の骨粗鬆症を理由に直ちに減額することには消極的です。骨折の態様や骨密度の数値などを具体的に検討し、骨粗鬆症が骨折の発生・拡大に明らかに寄与したと認められる場合に限り、限定的に減額が考慮されます。

保険会社の不当な減額主張にどう対抗すべきか

保険会社から素因減額を主張された場合、決してそれを鵜呑みにせず、以下の観点から専門家である弁護士に相談し、適切な反論を行うことが重要です。

医学的観点からの反論

ア 主治医の意見の重要性

まず、主治医に相談し、保険会社から指摘された所見が、賠償額を減額すべき「疾患」と言えるのか、それとも「加齢性変性」のような単なる身体的特徴に過ぎないのかについて、医学的な意見をもらうことが極めて重要です。弁護士は、その医師の意見書や医学文献などを基に、指摘された所見が法的に減額の対象となる「疾患」にはあたらないことを主張します。

イ 事故との因果関係の主張

仮に何らかの疾患があったとしても、現在の症状はあくまで今回の事故という外力によって新たに生じたものであり、既存の疾患が症状を悪化させたわけではないとの主張をします。特に、事故前に無症状であったことは、極めて強力な反論材料となります。

法的観点からの反論

ア 裁判例の提示

弁護士は、ご提供いただいた論文で分析されているような過去の裁判例を調査・分析し、類似の事案で素因減額が否定された、あるいは減額率が低く抑えられた裁判例を保険会社に提示し、安易な減額に応じないよう交渉します。

イ 減額割合の交渉

仮に「疾患」の寄与が一部認められるとしても、保険会社が提示する減額割合(例えば40%50%など)が、裁判所の傾向に照らして過大であることを主張し、より低い割合での解決を目指します。

素因減額は、医学と法律が交錯する非常に専門的な分野です。被害者ご自身で保険会社と対等に交渉することは、事実上不可能に近いと言えるでしょう。

門前仲町の福永法律事務所では、交通事故案件における豊富な経験に基づき、医学的な論点についても深く検討し、依頼者の正当な権利を守るための弁護活動を行っています。保険会社から素因減額を理由に不当な低額の示談金を提示され、お悩みの方は、示談書にサインする前に、ぜひ一度、当事務所の弁護士にご相談ください。

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