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【門前仲町 弁護士による徹底解説】将来介護費にかかわる諸問題

【門前仲町 弁護士解説】重度の後遺障害が残ったご家族のために「将来介護費」はいくら請求できるのか?裁判所の算定実務

福永法律事務所(門前仲町) 弁護士福永悦史執筆

はじめに:生涯続く介護という現実と、その経済的負担

交通事故は、時として被害者の人生を一変させ、ご家族の生活にも計り知れない影響を及ぼします。特に、遷延性意識障害(いわゆる植物状態)、高次脳機能障害による判断能力の低下、脊髄損傷による四肢麻痺など、生涯にわたって常時または随時の介護が必要となる重篤な後遺障害が残ってしまった場合、その精神的なご負担はもとより、経済的な負担は想像を絶するものがあります。

「これから先の介護費用は、一体いくらかかるのだろうか」 「仕事を辞めて介護に専念しなければならないが、その間の収入はどうなるのか」 「保険会社から提示された金額では、将来の介護を到底まかないきれない」

このような切実な不安に対し、法律は、加害者に対し、将来必要となる介護費用を損害賠償として請求する権利を認めています。これが「将来介護費」です。

将来介護費は、損害賠償項目の中でも特に高額となりやすく、その算定は極めて専門的であるため、保険会社との間で最も激しい争点の一つとなります。

本稿では、門前仲町で交通事故案件、特に重度後遺障害という困難な問題に直面されたご家族への対応に注力する福永法律事務所の弁護士が、この「将来介護費」について、ご家族による介護(近親者介護)と職業介護人による介護の違い、そして裁判所が用いる具体的な算定基準を、裁判官の論文や実務運用を基に、徹底的に解説いたします。

「将来介護費」とは何か?請求が認められるための要件

将来介護費とは、交通事故による後遺障害のために、被害者が生涯にわたって必要とする介護サービスの費用を、損害として賠償してもらうものです。

この請求が認められるためには、以下の2点が大前提となります。

    後遺障害の存在とその内容・程度

将来にわたる介護の必要性は、後遺障害の内容と等級によって判断されます。具体的には、自賠責後遺障害等級において、常時介護を要する第1または随時介護を要する第2に認定されるような、極めて重篤な後遺障害が残存した場合が典型です。しかし、これらの等級に該当しない場合でも、具体的な症状や生活状況から、医師の意見などを基に将来の介護の必要性を立証できれば、請求が認められる可能性はあります。その代表例としては、いわゆる「高次脳機能障害」を生じた場合です。

    介護の必要性

 医師の診断書や意見書、カルテ、看護記録、あるいはご家族が作成した日常生活状況報告書などに基づき、被害者が日常生活を送る上で、具体的にどのような介護(食事、入浴、排泄、移動、体位変換、見守りなど)が必要不可欠であるかを具体的に主張・立証する必要があります。

介護の主体による違い「近親者介護」と「職業介護人」

将来介護を誰が担うかによって、介護費の考え方が異なります。

1. 近親者介護

配偶者、親、子といったご家族(近親者)が、主体となって介護を行う場合です。 保険会社はしばしば、「家族なのだから介護をするのは当然であり、費用は発生しない」といった主張をすることがありますが、これは明確な誤りです。

裁判所は、近親者が介護を行う場合であっても、それが被害者の生命維持や日常生活に不可欠であり、近親者が多大な肉体的・精神的負担を強いられ、自身の時間や職業生活を犠牲にしている実態を考慮し、その労働を金銭的に評価して介護費用として認めるとの立場を確立しています。

2. 職業介護人による介護

ホームヘルパーや訪問看護師といった職業介護人による介護サービスを利用する場合、あるいは介護施設に入所する場合です。この場合は、事業者に支払う実費が損害の基礎となります。

実務上は、近親者介護を基本としつつ、近親者の休息のためや、専門的な処置のために、一部職業介護人を併用するというハイブリッド型の請求も多く行われます。

裁判所が用いる具体的な計算方法

将来介護費は、以下の計算式によって算出するのが基本です。

将来介護費 =介護費日額 × 365 × ②平均余命までのライプニッツ係数

1.介護費日額最も重要な争点

1日あたりいくらの介護費を認めるか」という日額の設定は、将来介護費の算定において最も重要な争点であり、保険会社との主張が真っ向から対立する部分です。

◇近親者介護の場合

過去の裁判例を分析すると、近親者介護の場合について、裁判所は,一定の基準を設けていることがわかります。

ア 原則的な基準

多くの裁判例では、近親者介護の場合の日額として8,000を一つの目安としています。これは、近親者が介護に専念するために仕事を辞めざるを得ない場合などの逸失利益も考慮した、実質的な補償額と理解されています。

イ 増額が認められるケース

ただし、8,000円はあくまで基準であり、被害者の症状や介護の過酷さに応じて、日額8,000円を超える金額が認められるケースは多数存在します。 増額が考慮される具体的な事情としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 頻繁な体位変換、痰の吸引、経管栄養など、専門的知識や肉体的負担の大きい介護が必要な場合。
  • 被害者の体格が大きく、介護者の負担が特に重い場合。
  • 被害者に意識があり、コミュニケーションは取れるものの、精神的に不安定で常時見守りが必要など、精神的な負担が特に大きい場合。
  • 介護にあたる近親者が複数必要となる場合。

これらの事情を具体的に主張・立証することで、日額8,000を超える介護費用が認定される可能性が十分にあります。

◇職業介護人の場合

職業介護人を利用する場合は、原則としてその実費が基準となります。ただし、その利用時間や費用が、被害者の症状に照らして社会通念上相当な範囲であることが求められます。

2. 平均余命とライプニッツ係数

ア 平均余命

将来介護費がいつまで必要か、という終期は、原則として被害者の平均余命(厚生労働省発表の簡易生命表などに基づく、その年齢・性別の人が平均であと何年生きるかを示す数値)までとされます。

イ ライプニッツ係数

将来にわたって発生する介護費用を、示談や判決の時点で一時金として受け取るため、将来生じるはずの利息分をあらかじめ差し引く(これを中間利息控除といいます)必要があります。その計算に用いるのが、年齢(平均余命までの年数)に応じて法律で定められた「ライプニッツ係数」という数値です。

将来介護費をめぐる実務上の重要論点

1. 近親者の「愛情」を理由とする減額は認められるか

保険会社は時に、「家族が愛情をもって介護するのは当然であり、その分は減額すべき」といった趣旨の主張をすることがあります。 しかし、裁判所は、近親者の愛情は、介護の負担を軽減するものではなく、むしろ精神的な負担を増大させる側面もあるとして、近親者の愛情を理由に介護費を減額することは原則として認めていません

2. 公的介護保険や障害福祉サービスとの関係

将来、公的な介護保険や障害福祉サービスを利用した場合、その給付分は損害から控除(損益相殺)される可能性があります。 しかし、これらの公的給付は制度の変更など将来の不確実性が高いため、裁判所は、将来の受給が確実と見込まれる具体的な事情がない限り、安易に賠償額から控除することには慎重な姿勢をとっています。

3. 将来の介護体制の具体性

将来介護費を請求するにあたっては、「将来、このような介護が必要になるだろう」という抽象的な主張だけでは不十分です。 「誰が(近親者か、職業介護人か)、どこで(自宅か、施設か)、どのような内容の介護を、1日何時間行うのか」といった、具体的で合理的な将来の介護計画を、医師やケアマネージャーの意見を基に構築し、裁判所に提示することが極めて重要です。

4. 介護リフォーム費用は損害として認められるか?

重度の後遺障害が残り、在宅介護を行う場合、被害者の生活や介護のために自宅の改修(リフォーム)が必要となるケースは少なくありません。例えば、以下のような費用が考えられます。

  • 車椅子での移動のためのスロープ設置、廊下の拡幅、段差の解消
  • 介護用ベッドの設置に伴う寝室の改築
  • 入浴介助のための浴室リフォーム
  • ホームエレベーターの設置

これらの住宅リフォーム費用は、交通事故による損害として加害者側に請求できるのでしょうか。

◇裁判所の判断基準「必要性」と「相当性」

裁判所は、住宅リフォーム費用を損害として認めるか否かについて、被害者の傷害の内容・程度に照らして、その改修工事が必要であり、かつ、その内容・費用が相当な範囲であるか、という基準で判断します。

ア 必要性の判断

医師の意見書や、理学療法士、建築士などの専門家の意見を基に、被害者が在宅生活を送る上で、そのリフォームが医学的・介護的に不可欠であるかが厳しく審査されます。単に「あった方が便利」という程度では足りず、そのリフォームがなければ在宅介護が著しく困難になる、といった高度の必要性が求められます。

イ 相当性の判断

必要性が認められたとしても、その内容が過度に贅沢なものであってはなりません。複数の業者から見積もりを取り、同種の工事内容として一般的な費用額の範囲内であることが求められます。また、リフォームによって建物の資産価値が客観的に増加した場合、その増価分は損害額から控除(損益相殺)されることがあります。

◇実務上のポイント

住宅リフォーム費用の請求は、その必要性と相当性を客観的な証拠によって具体的に立証する必要がある、専門的な分野です。保険会社はしばしば「リフォーム費用は認められない」と画一的な対応をとることが多いため、安易に諦めず、弁護士に相談することが重要です。

適正な賠償を確保するための弁護士の役割

将来介護費や住宅リフォーム費用といった、生涯にわたる損害の請求は、交通事故損害賠償の中でも最も専門的で、立証が困難な分野の一つです。医学的な知見、介護の実態、そして裁判所の判断基準に関する深い理解がなければ、保険会社の主張に適切に反論し、ご家族が置かれた過酷な状況に見合う正当な賠償を勝ち取ることはできません。

門前仲町の福永法律事務所にご依頼いただければ、弁護士が代理人として、

  • 主治医や専門医と連携し、介護や住宅改修の必要性を明らかにするための意見書作成をサポートします。
  • ケアマネージャーなどの専門家とも協力し、具体的で説得力のある将来の介護・生活計画を策定します。
  • 裁判官による論文や最新の裁判例を常に分析し、ご家族の負担の実態を正確に反映した、正当な賠償額を主張・立証します。
  • 精神的に過酷な保険会社との交渉や、複雑な訴訟手続きを全て代行し、ご家族の負担を軽減します。

ご家族が重い後遺障害を負われ、将来にわたる経済的な不安を抱えていらっしゃる場合は、ぜひ一度、当事務所の弁護士にご相談ください。

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